混沌とする医療現場の善と悪 第3回日本医療小説大賞に久坂部羊さん「悪医」


産経ニュース

「デビューして11年になるが、賞と名の付くものをいただいたのは今回が初めて」。第3回日本医療小説大賞(日本医師会主催)の授賞式が5月27日、東京都内で行われ、長編小説『悪医』(朝日新聞出版)で賞を射止めた医師で作家の久坂部羊(くさかべ・よう)さん(58)は喜びをかみしめた。
 受賞作は、がんの再発を告げられた患者と治療にあたる医師がそれぞれに直面する葛藤を描き、「患者と医者の意識のすれ違いを、鋭く精緻に組み立てていて説得力がある」(選考委員の篠田節子さん)と高く評価された。
 久坂部さんは、作家への憧れを募らせた高校時代に読んだドストエフスキーの『罪と罰』に触れながら、「医者が良かれと思ってしたことが、患者さんのうらみにつながったり、逆に医者から見たら良くない治療が患者さんにとっては望ましい治療法だったり。医療現場では、善と悪が混沌(こんとん)としている状況がある。これは非常に文学的なテーマであり、小説によって伝えることができると思った」と執筆過程を振り返った。
 式の冒頭、同賞の選考委員を務め、4月に死去した渡辺淳一さんに黙祷(もくとう)がささげられた。久坂部さんは大阪大学医学部時代、講演に来た渡辺さんに「小説家は書くことがなくならないんですか?」とぶしつけな質問をした逸話を披露して、「渡辺先生が言っていたのは、編集者は作家の“埋蔵量”を見るということ。若くしてデビューしても、書けなくなる作家もいる。私にどれだけ埋蔵量があるかは分からないが、これからも自分の穴を掘り続けたい」と力強く語った。(海老沢類)

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