新潟大、脳梗塞治療で合併症を引き起こすタンパク質を特定し治療法を開発

脳梗塞治療を飛躍的に向上できる糸口を発見!

 新潟大学の研究者グループは,脳梗塞治療で最も有効とされる血栓溶解療法の弱点とされる合併症(脳出血・脳浮腫)を引き起こすタンパク質を特定し治療法を開発しました。その研究成果は,学術誌『PLOS ONE』にオンライン掲載されます。


 新潟大学脳研究所(所長・西澤 正豊教授)神経内科の下畑 享良(しもはた たかよし)准教授を中心とする研究グループ(川村邦雄医師,高橋哲哉助教,金澤雅人助教ら)は,脳梗塞の治療で,最も有効とされる血栓溶解療法の弱点とされる合併症(脳出血,脳浮腫)が,アンギオポイエチン1(Ang1)というタンパク質の減少が引き金となって生じることを世界ではじめて明らかにしました。
 なお,本研究成果は新潟大学脳研究所の統合脳機能研究センター(センター長・中田 力教授)との共同研究です。


I.研究の概要
 脳卒中は本邦での死因の第4位を占め,寝たきりの原因の約3割を占める。このうち,血管が詰まることで発症する脳梗塞は,近年増加し,後遺症に苦しむ患者も多く,治療にかかる医療費は増加の一途をたどっている。
 1)「組織プラスミノゲン・アクチベーター(tPA)」を用いた血栓溶解療法は,血管に閉塞した血栓を溶かし血液の流れを再開するため最も有効な治療法である。しかし,治療可能時間が4.5時間以内と極めて短く,脳梗塞患者の5%未満しか治療の恩恵を受けられない。
 2)これは,発症後,時間が経過すると,脳の神経細胞だけでなく,血管にも障害が起こり,脳出血や脳浮腫(脳のむくみ)を生じやすくなるためである。
 3)研究グループは,ヒトの脳梗塞に病態が類似したラット脳塞栓モデルを用いて,アンギオポイエチン1(Ang1)というタンパク質の減少がtPA療法後の血管の障害や脳出血,脳浮腫の引き金となっていることを世界ではじめて明らかにした。
 4)さらに,強い活性をもつように合成したAng1をtPAとともに静脈に注射しAng1を補充したところ,血管に取り込まれた結果,治療後の脳出血や脳浮腫は抑制され,治療可能時間も延長できることを明らかにした。


II.本研究成果のポイント
 Ang1をtPAとともに使用することで,治療可能時間を延長できき,これにより
 (1)tPAによる血栓溶解療法がおこなわれる患者数の増加
 (2)副作用である脳出血,脳浮腫をおこす患者が減ることによる予後の改善
 (3)後遺症を残して介護が必要となる患者数の減少と医療費増大の抑制
などに繋がることが期待できる!


III.論文名・画像イメージ
 Effects of angiopoietin-1 on hemorrhagic transformation and cerebral edema after tissue plasminogen activator treatment for ischemic stroke in rats

 ラット脳虚血に対するtPA療法後の出血合併症,および脳浮腫に対するアンギオポイエチン1の効果

 ※画像イメージは添付の関連資料を参照


IV.参考
●本研究成果が実際の治療に反映された場合に,予想される延長時間
 1.対象患者の概算数(まず脳卒中の疫学)
  1)全患者数はがん患者よりも多く,約150万人
  2)年間,新たに約50万人の人が脳卒中になる。
  3)年間死亡者数は約13万人
  4)脳卒中のうち,血管が詰まる脳梗塞が種類として最も多く,全体の約70~80%(約120万人)

 2.血栓溶解療法(tPA)の治療頻度等(tPA治療時間と治療適応の頻度)
  現在,発症4.5時間以内を対処可能としているが,実態としては,発症3.5時間以内でないと検査や治療が間に合わないため,実際にtPA治療が行われる頻度は脳梗塞全体の5%未満である。

 3.今回,発見した成果が治療に反映された場合の効果
  正確な治療可能時間の延長時間はヒトにおける臨床試験で確認する必要があるが,「発症6時間から8時間まで延長することができる」のではないかと考えている。

 4.研究グループのこれまでの実績
  研究グループは平成23年にも,血栓溶解療法後の脳出血を引き起こすタンパク質として血管内皮増殖因子を特定し,このタンパク質を抑制する治療が脳出血を抑制することを示した。現在,新潟大学は米国ベンチャー企業ShimoJaniと共同で,この薬剤の臨床試験を計画している。


V.研究成果の公表
 これらの研究成果は、平成26年6月4日の米国学術誌『PLOS ONE(*)』にオンライン掲載されます。

 *PLOS ONEは,Public Library of Science社より刊行されている,オープンアクセスの査読つきの科学雑誌で,科学と医学の一次調査の研究を扱っている。

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