血圧147はOK? 予防医学の視点で判断を 人間ドック学会の「基準値緩和」報道

産経ニュース

 週刊誌などで「血圧新基準値147」など健康診断の基準が緩和されたかのような報道が相次いでいる。日本人間ドック学会などが4月に発表した「新基準値」を受けたものだが、これは人間ドックを受けた人のうち健康と思われる人の血圧やコレステロールの分布範囲を示したもので、病気予防のための基準値ではない。専門家は「基準緩和の報道は事実誤認。高血圧や脂質異常症と診断された人は自己判断しないで」と話している。(平沢裕子)
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 ◆判定基準と混同
 高血圧を例に取ると、新基準値は「147/94以上」。一方、日本高血圧学会の判定基準は「140/90以上」。新基準値は平成23年に人間ドックと健診を受けた15万人の血圧やコレステロールの分布範囲を示したもので、高血圧かどうかの判定基準ではない。
 しかし、新基準値について伝える直後の報道は「健康な人 増える?」「男性の中性脂肪、高くても健康」など判定基準が緩和されるかのような内容が多かった。こうした報道に対し、人間ドック学会は「今すぐ判定基準を変更するものではない」との見解を出した。しかし、今も新基準値と健診の判定基準を混同した報道が少なくない。
 NPO法人「臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)」の桑島巌理事長は「特に中高年を対象とした週刊誌で、新基準値を取り上げ、『健診は無意味』とする論調が目立つ。誤った報道で治療が必要な患者が治療を中断する可能性があり、問題」と指摘する。

 ◆健康過信に警鐘
 週刊誌の中には、平成12年に血圧の基準値が、それまでの「160/95以上」から急激に引き下げられたことを問題視しているものもあった。理由として、「血圧150で降圧剤を飲まなくても10年以上元気な人はたくさんいる」(ある開業医)としている。
 桑島理事長によると、引き下げは大規模臨床試験で多くのエビデンス(証拠)が出たのを受け、実施されたものという。このうち、高齢の高血圧患者を対象とした臨床試験「SHEP」は、血圧160以上の患者を「降圧剤を使う群」と「プラセボ(偽薬)を使う群」に分け、5年間追跡し、差が出るかを調べた。結果は、プラセボ群で脳卒中が多発した。降圧剤群の達成血圧値がほぼ140であったことから、高齢者でもこのレベルまで下げた方がいいことが分かり、基準を引き下げた。
 「この試験の前は『高齢者では血圧は高い方が良く、血圧を下げると逆に脳卒中や心筋梗塞が増える』と考えられていた。臨床試験によって、この考えが間違いであることが証明された」(桑島理事長)
 循環器疾患専門で、健診や診療に40年近くかかわってきた桑島理事長は、働き盛りの中高年で脳卒中や心筋梗塞で突然死したり後遺症となったりした人を多く診てきた。その多くが高血圧が指摘されていたにもかかわらず、病院を受診しなかった人たちだ。
 桑島理事長は「新基準値をめぐる誤った報道は、根拠なく『自分は大丈夫』と考え、健診で異常を指摘されても治療しようとしない中高年の健康過信を助長する可能性がある。予防医学の視点から科学的根拠に基づいた正確な報道をしてほしい」と訴えている。
 人間ドック学会は今月、理事会を開き、新基準値を今後、健診にどのように生かすか検討する。

■高血圧・動脈硬化の2学会も見解
 新基準値の報道をめぐっては、2学会が次のような見解を発表している。
 日本高血圧学会「高血圧の判定基準は140/90以上。血圧が高くなるほど脳卒中や心筋梗塞などの罹患(りかん)リスクや死亡リスクが高くなり、高血圧を治療することで心血管病の発症は減ることが確認されている」
 日本動脈硬化学会「高LDL(悪玉)コレステロール血症の診断基準値140以上などの設定は、ただちに薬物治療が必要なことを意味しているわけではなく、生活習慣の改善が必要な数値」

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